教師Aの授業記録



「……誰がクソ教師だと?」


見上げた先には怒った顔の担任教師の顔があった、

田中は何度も目を瞬かせた。

そこに居るのはまぎれも無く担任教師だ。

しかし先ほどの声はあまりにもはっきりと聞き取れた。


「先生、野球部の部員を買収してないよな?」

「当たり前だろ。一体何を言っているんだ?」

どう見ても不思議そうに首を捻る教師に、しかし田中の疑いは晴れなかった。

「じゃあ、外から飛んできたボールがこの教室に入ってきて、しかも俺に命中するってどれだけの確率なんだよ」

息巻いて問いかける。

それに対し、

「――ずばり100パーセントだ」

ふと見れば担任教師の顔が教師Aの顔に変わっている。


田中はもう恐怖のあまりに発狂するしかなかった。

今まで見たホラー映画よりダントツに恐怖だった。


「…ボールが命中…?何言ってるんだ。お前が机の下に隠れようとして机の角に顔面をぶつけただけだろ?」

実は担任教師はそう言っていただけだったのだが、途中で田中が発狂し始めたのでビックリして田中の肩を揺すった。

「お、おい。どーした?!しっかりしろ!」

するとやっと田中の視線が担任教師へ定まった。

「……あ、あれ?…先生?」

その顔はびっしょりと汗を掻いていた。

「大丈夫か?打ち所が悪かったか?」

「……いえ。そう言う以前に、俺はもう駄目みたいです…。
……そのうち自分が金星人だとか言い出すかもしれません」

疲労困憊の色を浮かべて、田中は力なく答えた。


「顔色が悪すぎるぞ。
ったく、具合が悪いなら無理して学校に来なくていいんだ。

……まぁ取りあえずは保健室だな」


脇に手を差しこまれ、抱えられる。

脱力しきった田中の身体はなされるがままになった。


「……先生。

保健室じゃなくて、出来れば病院に連れて行って下さい。
もう精神科なりどこへなりぶち込んでくれて構わねーから」


ほとんど白くなり魂の抜けきった田中の訴えは、しかし誰にも聞き届けられることは無かった。
< 91 / 94 >

この作品をシェア

pagetop