教師Aの授業記録
「……誰がクソ教師だと?」
見上げた先には怒った顔の担任教師の顔があった、
田中は何度も目を瞬かせた。
そこに居るのはまぎれも無く担任教師だ。
しかし先ほどの声はあまりにもはっきりと聞き取れた。
「先生、野球部の部員を買収してないよな?」
「当たり前だろ。一体何を言っているんだ?」
どう見ても不思議そうに首を捻る教師に、しかし田中の疑いは晴れなかった。
「じゃあ、外から飛んできたボールがこの教室に入ってきて、しかも俺に命中するってどれだけの確率なんだよ」
息巻いて問いかける。
それに対し、
「――ずばり100パーセントだ」
ふと見れば担任教師の顔が教師Aの顔に変わっている。
田中はもう恐怖のあまりに発狂するしかなかった。
今まで見たホラー映画よりダントツに恐怖だった。
「…ボールが命中…?何言ってるんだ。お前が机の下に隠れようとして机の角に顔面をぶつけただけだろ?」
実は担任教師はそう言っていただけだったのだが、途中で田中が発狂し始めたのでビックリして田中の肩を揺すった。
「お、おい。どーした?!しっかりしろ!」
するとやっと田中の視線が担任教師へ定まった。
「……あ、あれ?…先生?」
その顔はびっしょりと汗を掻いていた。
「大丈夫か?打ち所が悪かったか?」
「……いえ。そう言う以前に、俺はもう駄目みたいです…。
……そのうち自分が金星人だとか言い出すかもしれません」
疲労困憊の色を浮かべて、田中は力なく答えた。
「顔色が悪すぎるぞ。
ったく、具合が悪いなら無理して学校に来なくていいんだ。
……まぁ取りあえずは保健室だな」
脇に手を差しこまれ、抱えられる。
脱力しきった田中の身体はなされるがままになった。
「……先生。
保健室じゃなくて、出来れば病院に連れて行って下さい。
もう精神科なりどこへなりぶち込んでくれて構わねーから」
ほとんど白くなり魂の抜けきった田中の訴えは、しかし誰にも聞き届けられることは無かった。