教師Aの授業記録
「…そして付き合いは順調に続いて、田中君も無事に高校も卒業して、私が大学に進学して卒業してから―――結婚…」
そう書ききってから、熱くなった頬を両手で押さえた。
……理想的すぎる。
そして兄さんと三人で暮らせたらもっと最高だなぁ、なんて。
山下絵里はその幸福に酔いしれ、しばしぼーっと佇んでいた。
それからふと思いついて、もう一度ペンを持つ。
いつか見た漫画に書かれていた、指に目玉のついた絵をさらさらと描く。
ここに”書かれて”あることが”現実”になるよう、願いを込めて。
「――それではまた」
そこでやっと授業記録は終わった。
これでもう本当におしまい。
あとは自分なりに精いっぱい頑張ってみるだけ。
「――どうか、より良い明日が来ますように」
ただそれだけを願って。
大切な人たちのことを想って。
それがきっと明日を変える力になると信じて。
山下絵里は遥か遠くを見て微笑みながら、静かにそのノートを閉じたのだった。
~fin~