影送り
あの時のままだ。
「そんなこと、ないよ」
「ううん、綺麗だ。大人っぽくなったね」
下ろしたまま、腰まである髪に手を通した。
ぼんやりと、何度も通される手の感触に胸を躍らせた。
モクモクと大きくなっていっている、入道雲。
あの日も、こんな空だった。
「ねぇ、ちょっと歩かない?」
そう、涼君の返事を待たずに立ち上がる。
でも、涼君は腰を下ろしたまま。
小さく微笑みながら、わたしを見上げているだけだった。