散華の麗人
一正は風麗を見送った。
「はははっ。律儀な奴やな。」
そして、呑気に笑う。
「こんな風に、守られているのも悪くないかもな。」
そう言って、人影を見た。
「あんたの家族をわしは奪った。あんたの居場所もな。」
「……」
人影は憎悪する表情で一正を見る。
「わしに出来ることは、あんたに居場所をやるだけや。あんた、わしのとこにこないか?わしには奇術師が必要や。」
「どういうおつもりですか?」
人影は問う。
「狐子。」
一正は人影を呼ぶ。
「情けのつもりか?……哀惜のつもりか!?ならば、初めから家族を奪うな!!細川一正!!」
「別に、変な同情や偽善でもない。奇術師がいれば、退屈せぇへんやろ?それだけや。」
「嘘だ!!」
優しく言う一正に狐子は激情をぶつけた。
「貴方は偽善の色によがり狂い、ただ自己満足しているだけに過ぎない。甘言を吐き、狐から全てを奪った……細川一正。貴方を決して許しはしない。」
そう言いながら、一正を殴りつけた。
一正はそれを避けずに、哀れむのではない、淡々とした表情で見た。
「狐はそうやって、甘言で惑わす人間に裏切られてきた。愚かな人間に利用されてきた!!」
「今回みたいに……か?」
「!!」
狐子の拳が止まった。
「あんたの復讐心を利用されたんやないか?誰に利用された?」
「知ったような口を……」
しかし、的を得た発言なだけに何も言えなくなった。
< 31 / 920 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop