散華の麗人
2人は睨み合うわけでも見つめ合うわけでもなく、ただ沈黙している。
狐子は憎しみを込めた目で、真っ直ぐとこちら見据える陸羽を見る。
「狐子」
陸羽が呼び掛ける。
(この人も……狐から全てを奪った。)
それに応えず黙って睨む。
(やはり、復讐の焔は消えぬか。)
仮面越しに見える復讐心に陸羽は冷静な表情した。
「儂を憎むか。儂を殺したいか。」
「――っ」
狐子は唇を噛みしめた。
仮面越しには表情は見えないが、怒りで震える肩を見て、陸羽はその答えを悟った。

――否

答えは初めから分かっていた。

その上で陸羽は敢えて問う。
陸羽は狐子を見据える。
「……だが、ぬしの為に死んでやるわけにはゆかぬ。儂にも、守るものというやつがある。ぬしがそうであったようにな。」
その言葉に狐子は視線を逸らした。
(守るもの……)
自分にも、あった。
今はない守りたかったものが頭を過ぎる。
憎しみが募る。
けれど、それは今限りで終わりだ。
これからはその憎しみの矛先にあったものを守るのだから。
忘れなければならない。
消さなければならない。
「ぬしが儂を憎もうが構わぬ。だが、あのバカモノを裏切ることだけは許さぬ。例え、何があろうとな。」
鋭く言い放った。
「主を裏切ることは、この命に誓って、ありません。」
固い声音で言う。
「誠よな?」
陸羽は狐子の目を見た。
「その誓い、決して違えるな。違えたときは……儂がぬしの首を刎ねる。」
「は。肝に銘じます。」
静かに強く言う陸羽に狐子は頭を下げた。
「なれば良い。」
陸羽はそう言いながら、棚の引き出しを開けた。
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