散華の麗人
そして、何かを差し出す。
男性ものだと思われる、柄や鞘に赤黒い漆が塗られた脇差しだ。
「見よ。」
「!!」
それを見て、狐子は目を大きく見開いた。
「“化け狐の妖刀”だそうな。」
「……これをどこで?」
「さぁな。下働きの者が持っておった。面白いから儂が買った。」
陸羽はそう言って、脇差しを狐子の前に置いた。
「ぬしの父の物だと、風の噂で聞いた。なれば、持つべきはぬしよな。」
当然の様な口ぶりで言う。
狐子はそっと脇差しに触れた。

この脇差しに触れることは初めてだ。

『それなあに?』

姉と妹が寄って集って、父の脇差しに触れようとする。

しかし、父は1度も脇差しに触れさせたことはなかった。

この脇差しは、先祖代々受け継がれてきたもので、命より大切な物だと聞いたことがある。

(父様……)
狐子の脳裏に昔の思い出が浮かぶ。
静かに憎しみの目が哀惜に変わる。
「何故、このような情けを?」
「ぬしは……」
言いかけて、陸羽は黙った。

両親を幼くして争いでなくした者

目の前にいるそれは、良く見知った者と同じだ。

(……なんて、腑抜けにも程がある。)
陸羽はそう思って言うのをやめた。
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