散華の麗人
陸羽はわずかに口角を上げた。
「下らぬ理由をわざわざ聞く趣味はぬしにあるまい。」
呟くように言った。
「……先程、言ったであろ?持ち物はあるべき主が持つべきだ。……何れにせよ、それはぬしの物だ。」
「ありがたき幸せに存じます。」
狐子は頭を下げて、本当に嬉しそうに言った。
「くれぐれも、バカモノを頼むぞ。」
陸羽は柄でないと思いながら言う。
「風麗という傭兵がいるが、奴は人間1人では制御出来ぬであろうからな。」
そう付け加える陸羽に狐子はくすくすと笑った。
「はい。重々、承知致しました。」
「うむ。」
狐子が言うと、陸羽が満足そうに頷いた。
「では、これで」
「ん。」
陸羽の返事を聞いて、狐子は外に出た。

外には与吉郎がいた。
「与吉郎様……いらしたのですか。」
「たった今、来たところじゃ。薬湯を飲む時間じゃからな。」
手元の薬湯を乗せた盆を見て、与吉郎は言った。
「狐子殿。共にこの国を護る身。何かあれば、某が力になり申す。」
「はい。ありがとうございます。」
狐子は相変わらずの抑揚がない声音で言った。
「では、これにて。」
「はい。それでは。」
そして、一礼した後、くるりと向きを変えて歩き出した。

与吉郎は狐子の姿を見送った後、陸羽の部屋の襖を開けた。
「薬湯にござります。」
「置け。」
「は。」
陸羽が言うと、与吉郎は薬湯を部屋に入った少し手前に置いた。
「それでは。」
与吉郎は静かに襖を閉めた。
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