散華の麗人
一正は二カッと笑む。
「こいつは昔から、わしの家臣やったんや。上尾の戦では、本陣を守った大きな功績もあるんやで。」
自慢気に言う。
「忠義ならば、我が国の内……いや。この世の誰にも負け劣りませぬ!」
松内は真剣な目をして言った。
「よい家臣ですね。」
「やろ?」
風麗に一正は笑う。
「あぁ。……それよりも」
「?」
松内に一正は首を傾げた。
「祭の準備が整いました。」
「さよか。ほな、行こか。」
一正はそう言いながら歩き始めた。

3人は山道を歩いていた。
「ここはな、昔は“人捨山”っと言って、行く宛がない人や遺体が捨てられていた山なんや。」
一正は山を上りながら言う。
「そうなのですか。私はそのような話、聞いたことありません。」
「……今では人も捨てられることはないし、この山は“紅葉山”っていうようになったからな。」
そう答えて辺りの木々を見回した。
今の名の通り、木々は綺麗な赤に染まっている。
「しかし、今でも身元がわからない戦死者がここに埋められるのです。」
「こんな綺麗な山に……」
松内の言葉に風麗は眉を寄せた。
「わしはこの山に捨てられている人の魂が眠れるように、祭をするときはここに来るんや。」
静かに、一正が言う。
「へぇ。」
(意外と考えているのか。)
風麗は少し驚いた。
「あぁ!……この季節は紅葉が綺麗やからな。紅葉狩りにも来るんやで。ジジィとかは嫌がるけどな。」
(紅葉狩りって……暢気な。)
一正に風麗は呆れた。.
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