散華の麗人
時雨は意見を述べる。
「愛を望まぬ者は居ない。誰もがそうだ。人間である限り、ひとりで生きることは上手く行かない。」
淡々と続ける。
「親からの感情は子にとって殊更大きなものだ。それが憎しみならば、憎むしか無いだろう。」
「分かり合える筈です!だって、親子でしょう?」
「憎しみは原因の解決でしか晴らせぬ。原因が女なら、その女を殺す他無いだろう。」
茶々は時雨の方に身を乗り出す。
「そんな……」
悲痛なくらいに悲しく、言葉を失った。
家族とは愛し合うものだと今まで思ってきた少年には残酷な現実だ。
「女を殺して、愛が残るとも限らないが。」
時雨は静かに言った。
「本心では畝も景之も親子として在りたい筈で、景之はどうしても赦せない女から生まれた子を愛していた。」
「今も、愛しているのだから。」
「あぁ。」
一正は時雨に頷き、景之が去った方を見た。
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