散華の麗人
――時雨がまだ幼き頃
当時、八倉雅之は傭兵としてではなく、成田国家臣として雇われていた。
それは表向きの身分であり、実際は人手不足を補うためだ。
細川国から成田国へ預けられていた時雨は雅之を師範として慕っていた。
『細川からか。』
雅之はその事情を知った後に時雨を見る。
『人質でしょうね。戦わないという忠誠の印。』
何のためらいもなく言う。
『早河家は細川国でも身分ある一族でした。しかし、早河家ごと成田国へ移ることとなったのです。』
『あぁ。何でも、成田国王が望んだらしいな。……早河家は成田国王により分散させられ、滅亡したとされる。』
(謂れのない罪を着せられてな。)
雅之は木刀を手渡しながら言う。
(この子供も知らないわけではなかろう。)
分かりきっていても口に出さずに思う。
『……貴様は、この国が憎いか。』
『いいえ。』
時雨は言う。
当時、八倉雅之は傭兵としてではなく、成田国家臣として雇われていた。
それは表向きの身分であり、実際は人手不足を補うためだ。
細川国から成田国へ預けられていた時雨は雅之を師範として慕っていた。
『細川からか。』
雅之はその事情を知った後に時雨を見る。
『人質でしょうね。戦わないという忠誠の印。』
何のためらいもなく言う。
『早河家は細川国でも身分ある一族でした。しかし、早河家ごと成田国へ移ることとなったのです。』
『あぁ。何でも、成田国王が望んだらしいな。……早河家は成田国王により分散させられ、滅亡したとされる。』
(謂れのない罪を着せられてな。)
雅之は木刀を手渡しながら言う。
(この子供も知らないわけではなかろう。)
分かりきっていても口に出さずに思う。
『……貴様は、この国が憎いか。』
『いいえ。』
時雨は言う。