散華の麗人
一瞬、嘘を吐いたかと思ったが目を見て本心だと認識した。
『私が憎むべきは無力さです。この不甲斐ない自身です。』
雅之はその答えに目を細めた。
『憎しみを他へ向けない主義か。』
『そのようなことではないですよ。』
時雨は自嘲する。
『この国で育ち、この国の家臣である貴方を慕っている。それは事実です。この国を憎めば貴方も憎まなければならない。……私にはそれが出来ません。』
そう言って悲しそうに微笑む。
『俺とは違うな。』
口に出しているつもりは無い口振りで雅之は言う。
木刀を真っ直ぐ振ると時雨を見た。
『独り言だ。聞き流せ。』
そう前置くともう一度真っ直ぐに木刀を振る。
『興味がないならば。』
時雨はそう言いながら真似る。
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