散華の麗人
――翌日、一正は全兵を前に下知した。
「これより、成田国へ行け。1番乗りには褒美を遣わす。」
その言葉に、少しのざわつきの後、一斉に成田国へ走り出す音がした。
兵士の格好は簡素な服だ。

そして、この場には、一正、風麗、リアン、月夜の4人が残った。

「どういう心算ですか?」
風麗は一正に尋ねる。
「準備が整い次第、武具や馬具を運ぶ。もちろん、その時は清零国の兵も駆り出す。」
ひと呼吸置いて、そして、と、話を続けた。
「その間、向こうに着いている兵には農民のフリしてもらう。」
「そうすれば、向こうの作戦もお見通しですね。」
リアンは軽く、眼鏡を上げた。
「成田国は元より、異国の者達の集落。住民票もなければ、戸籍も整備されていません。誰も、疑うことはないでしょうね。」
(流石、国王と言ったところか。)
リアンは言う。
しかし、一正は珍しく、浮かない顔をしている。
(暗い表情をしている陛下は初めて見た。)
「どうされましたか?」
風麗は優しく言った。
「わしは軍師でもなければ、智将でもない。軍師であるリアンの意見を蹴って、作戦を実行して……失敗してしまったら」
「戦とはそういうものですよ。」
リアンは宥めるように一正の言葉を遮った。
「今までの気紛れとは違う。命が懸かっとる。」
その真剣な眼差しに誰も言葉を発せなかった。.
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