散華の麗人
現状を先延ばしにしたに過ぎないと両者とも解っているようだった。
『当主と再会したのは事件後だった。』
雅之は目を伏せる。
憎しむようでも、悲しむようでも、寂しそうでも、愛おしそうでもあった。
『当主は物である認識をするような態度で見た。そして、“汚れた人間の血”と言い放った。』
感情を塞ごうと木刀を振った。
『子を見ぬ親など……』
伏せられた目は想いを悟られたくはないというようだ。
『自身でも解っている。親を慕っていたことも、本当は認めて欲しかった。必要とされたかった。……愛されたかったのだということも。』
『それでも、貴方は憎しみ続けるのですね。』
時雨は察した上で雅之を見つめた。
“何故ですか?”とは問いかけない。
それは慕っていた存在を憎めない時雨とその存在を憎まなければならない雅之、両者の気持ちがお互いにわかっていたということもあっただろう。
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