散華の麗人
城内では、家臣が忙しなく走り回っている。
雑兵も駆り出している為、警備する者がいないのだ。
女さえ、薙刀を持って警備している。
陸羽は自室で茶を飲んでいる。
「儂が警備する羽目にならなけば良いがな。」
陸羽はわざと大真面目な顔で言った。
「貴方が警備することになる時は狐が戦えなくなった時。それはあり得ません。ご安心を。」
狐子が落ち着いた様子で生真面目に答えた。
それを面白がっているように陸羽が見る。
「ぬしはこのような状況でよくも落ち着いていられるな。……やはり、経験か。」
「ある程度、予測していましたから。」
狐子が淡々と言う。
「そう言う貴方こそ、落ち着いていますね。」
「儂のは年の功というものよ。」
陸羽は冗談めかしく言った。
「あの、どうしようもないバカモノが、珍しく頭を使い、一計を巡らせた結果だ。万が一、儂が戦うことになろうと構わぬ……負けは認めぬが。」
「お優しいのですね。」
「さぁな。」
その言葉に陸羽が笑む。
「ただ、バカモノも漸く成長したのだと実感すると……ほんの少し、寂しくもあるな。」
「え?」
珍しくそんなことを言う陸羽に狐子は驚いた。
「年寄りの戯れ言よ。聞き流せ。」
陸羽は窓の外を見た。
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