散華の麗人
そして、数週間後に秀尚を本城に住まわせ、一正は分城へ帰る。

狐子は陸羽の元に残った。
「行きたければ行けば良い。」
「いいえ。」
狐子ははっきりと断る。
「陛下には狐は不要。それに……」
そう言うと意地悪に仮面越しに笑う。
「狐は陛下を憎んでいた。それは、今も燻っている。」
そして、陸羽の反応を伺う。
「陛下がもし奇襲にあえば、それに乗じて陛下を殺してしまうやも知れません。」
「狐子。」
陸羽は低く呼ぶ。
「……冗談ですよ。」
狐子はぺこりとお辞儀した。
「今は。」
そう付け加える。
「狐の想いは今も昔もあの日にある。いくら、仕えると心身共に差し出したとて、変われるはずもない。」
そう言って短刀を見つめた。
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