散華の麗人
それは、茶々も感じていたことだ。
「早く役に立ちたいと急くと仕損じる。特に、今は損ねる訳にはいかぬ。」
風正は言う。
「そう、言いたいのだろう。私も同じ考えだ。」
「解っておるのか。賢明だ。」
敦賀は笑む。
「私はこの名に相応しく在らねばならない。羨望も嫉妬も焦りもそれの妨げでしかない。」
風正はそう言うと拳を握る。
「あの方の1字に恥じぬ働きをしてみせる。これは私の意志であり、存在する意味だ。」
その表情には決意があった。
「然様か。」
(心配には及ばなかったな。)
敦賀は頷いた。
「茶々。」
風正は真っ直ぐに茶々を見た。
「貴様を認めた隠居様のお心を俺も信じる。……付いて来い。」
そう言うと背を向けて歩き始めた。
「はい。」
内心、何処へ行くのかと思いながら茶々は付いて行く。
「稽古をつけてやるつもりであろう。」
敦賀は耳打ちした。
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