散華の麗人

疑心暗鬼

風麗は利光のところに行く。
彼は丁度、柚木邸へ行った帰りのようだ。
身を隠していないことから、陸羽派とは別件だったのかも知れない。
本城の裏口から利光が入るところが見えた。
「川中殿。」
「はい。」
きょとんと驚いた表情の利光に対して風麗は冷静だ。
「こんなところでどうされたのですか?」
「あぁ。柚木殿の屋敷から帰ってきてたのでござ……きてたのです。」
わざわざ言い直した様子を不思議がったが、そこには言及しなかった。
「帰るのに裏口を?」
「特に意味などありませぬ。唯、此方の櫓にも用事があったものですから。」
(本当は、こうして問われるのが面倒だったのだが……)
内心、風麗を鬱陶しく思いながら利光は答えた。
「貴方こそ、こんな所で何用ですか?陛下は居ないようですが。」
「川中殿に会いに。兵から、柚木邸にいると聞いていたので。」
「某に?」
利光は童顔な双眸を丸くしている。
< 789 / 920 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop