散華の麗人
少しの沈黙が流れる。
「何ですか?その、辛気臭い顔。」
千代は沈黙を打ち破ると同時に、一正の方へ詰め寄った。
(いつもはヘラヘラとしているくせに。らしくない。)
「甘言を欲すならば、わらわはご期待には添えません。松内様や、風麗にでも求めればいいでしょう。」
千代は一正に“馬鹿”と言って、唾でも吐きたい気持ちを抑えて言った。
「ふん。」
そう言ってそっぽを向き、元のように座ると、“ガラッ”と襖が開いた。

橙の髪の傭兵は目を伏せたあと、部屋に入った。
「失礼致します。」
茶を差し出し、深々と頭を下げる。
「手間をかけさせましたね。風麗。」
千代は意味ありげな表情を向ける。
「いえ。仕事ですから。」
「ご苦労様。」
風麗に千代は答えて、湯飲みに手を伸ばした。
「陛下も飲んではいかがです?少しは気が落ち着きますよ。」
「わしは落ち着いておる。」
一正はそういい返しながらも、茶を飲んだ。
「おぉ!こんなうまい茶は初めて飲んだ。」
無邪気に驚く一正を見て、風麗も千代もクスクス笑う。
「然様ですか。」
「あぁ!……これは、本城のものではないな?どこのだ?」
千代に興味津々だという目で問う。
「なんでも、成田の方へ視察に行った兵が持ってきたのだとか。」
「土産屋か?」
「いえ、ただの茶屋です。兵が休息を取り、話していると……」
千代は兵士からの報告を思い返した。
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