散華の麗人
雅之は離れにある鍛錬所に着いた。
風正と共に茶々や惣右介は修行に励んでいた。
「今日は終いだ。餓鬼は帰れ。」
「餓鬼とは何だ!」
惣右介が喚いている。
少しして喚き疲れたのか、惣右介が部屋に帰っていった。
「感心だな。」
雅之が辺りを警戒しながら来た。
辺りは薄暗い。
もうすぐ夜になるだろう。
風正は驚いた顔で呆然としている。
「まだ、基礎の基礎でありまする。」
茶々は未熟な自分に恥じるように言う。
「し、師匠……?」
風正は雅之を呼ぶ。
「何だ?」
雅之は目を細める。
「……あぁ、貴様とは死んで以来だな。」
成田の戦を思いながら言う。
あの時のことを敢えて“死んだ”と表す。
「本当に、生きていらしたのですね。」
風正は嬉しそうに泣きそうに笑った。
彼はその心境と反して“生きている”と言う。
「俺が簡単に死ぬとでも?」
「滅相もない。」
不敵に笑うと安堵する。
(信頼しているのか。)
お互いに信頼関係にある師弟を茶々は羨望する。
そういう風に、信じられたい。
そう思った。
「とはいえ、死んだことになってはいるが。」
「存じてます。」
風正は頷く。
「貴様ともそうそう会えぬだろう。」
“八倉雅之としては”と暗に言う。
「稽古のひとつでも付けてやれれば良いが。……当然、その必要もないだろう?」
有無を言わせぬ表情で言う。
「未だ、未熟です。」
「それでは困る。精進せよ。」
冷たく返すと用事が済んだように去って行った。
その言葉は彼なりの激励だというのは2人共は知っている。
「不器用な方。」
思わず、茶々は呟いた。
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