散華の麗人
秀尚は利光と茶室に来ていた。
「川中。」
「はい。」
利光は真っ直ぐに秀尚を見る。
「父上がこんなにも急に政権を譲ったのは何か、思惑があると思う。」
「それは、先程の様子から見て取れましょう。」
体調が悪そうな一正の様子を思い浮かべて言う。
「それだけじゃない。」
秀尚は利光を見る。
「国王を退くことで成し遂げようとしていることがある気がする。」
「考えすぎですよ。」
「いや、あのひとは狸だ。腹の中が読めぬ。」
利光は苦笑する。
「狸、か。」
(何を考えているのだろうな。あの方は。)
到底予測できないと首を振った。
秀尚と意見が食い違っていることだけではない深い溝がありありと伝わる。
妻や子よりも民の為に生きた国王。
その姿を理解するには時間が必要なのだろう。
(確執……陸羽派を助長させるにはうってつけの火種。これが争いの引き金にならなければ良いが。)
利光は案じる。
一正の政権を快く思わない人物のうちのひとりであるが、反面で陸羽派と現国王派が争うことは嫌だとも思っている。
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