散華の麗人

動く感情と歪み

成田城では城主である景之とその家臣である辻丸の声が絶えず響き渡っていた。
「おれは小間使いではない!何度も言わせるな!!」
「茶くらい黙って運べないのか、使えない奴め。」
「何をー!!本当に腹が立つ!こんなのが城主などおれは認めない。」
「事実を否定する行為は臆病者がすることだ。」
景之はゆったりと座って辻丸を見る。
辻丸の手にはお盆と茶がある。
「貴様が役に立つといえばこのくらいしかない。」
「はぁ!?馬鹿にしているのか!」
辻丸は景之の目の前へ乱暴に茶を置いた。
「掃除さえもまともに出来ない奴が何を言っても説得力に欠ける。」
そう言う景之の言葉通り、辻丸はついさっき床掃除を命じられたものの掃除をせずに喚いていた。
不服だと不満だと声を荒げる辻丸の姿も景之からすれば取るに足らない存在らしい。
辻丸よりも幼い姿とはかけ離れた冷淡さで彼は目の前の少年を見据える。
その目は相変わらず、深い深い闇のようで
夜に似たその闇はいかなるものも拒むようで
全く動じない感情に人間らしさが欠如していると周囲に評される。
「勘違いをするな。貴様と俺は主従関係に過ぎない。」
冷静に言い放つと景之は湯呑に手を伸ばした。
辻丸が乱暴に置いたせいで茶が零れている。
そんなことをお構いなしに茶を飲み干した。
「次は零さず持って来い。」
「うるせぇやい!」
辻丸はぷいっとそっぽを向いた。
「相変わらず、仲がよろしいことで。」
そう言って部屋に入ってきたのは八倉家の家臣だ。
< 821 / 920 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop