散華の麗人
辻丸は訳がわからない表情だ。
景之は秘薬の話を辻丸にした時のことを思い出す。
どうにか抑えたものの記憶に呑まれかけた。
(秘薬による影響が強くなっている。)
“ねぇ……いっしょに、あそぼう?”
頭の中で呼びかける声。
闇夜の一族の記憶。
(呑まれぬ内に対策を取らねば。)
そう考える景之を良寧は見る。
「何か、変わったことでも?」
「何を以て普通と言う?」
「問いを問いで返さないでください。」
「基準を知らねば答えられまい。」
良寧に景之は淡々と言う。
「変わらぬものなど在りはしない。」
はっきりと言った。
「どんなに強固であれど、どんなに精度が高くとも、壊れぬものは無い。この研究もそうだ。」
「だから、この刀を?」
「そうだ。」
辻丸に答える。
「おれでいいのか?」
「何だ?自信がないのか。ならば、良寧に渡すんだな。」
「――っ!!ムカつく!!!その言い方は喧嘩売ってるだろ。」
「売っていない。」
景之は立ち止まって、辻丸を見る。
何か言いかけたがやめた様子だった。
微細な表情が何を語るかはわからない。
良寧には別の何か重要なことを言おうとしたように見えた。
「文句ばかり多い奴だ。」
それだけ言って歩き始める。
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