散華の麗人
血が黒く変色する。
「喜べ。くそ餓鬼、遊びの時間だ。」
景之はそう呟いて、かは、と血を吐いた。
口の端で“笑った”ように見えた。
“ふふふ……”
楽しそうな子供の笑い声が黒い液体から木霊する。
「殲滅せよ。」
景之は血が付いた懐刀をひと振りした。
傷口から血が噴き出すが、痛みも感じていないような表情だ。
血が硬化し、変形する。
傷口はふさがり、懐刀は長刀のように変わった。
「これが、秘薬の力……」
良寧は圧倒されたように見る。
目の前に居た敵が、いとも容易く斬られる。
雑草でも取り除くように無感動に。
景之に斬られる者を黒いものが喰らう。
喰らう度に、黒いものははっきりとした影となり、うねる。
影は次々に生きているものまで刻む。
其処は地獄。
いいや。
生き地獄であった。
地獄の方が、マシかもしれないと思う者も居るのだろう。
戦にして戦に非ず。
唯の殺戮と言うのが相応だ。
殺戮よりおぞましい行為。
この戦場は、人間の力が及ぶ場所ではないと誰もが思った。
「ぐあぁああ!!」
悲鳴がする。
ぐしゃりという生々しい音が戦場を谺する。
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