散華の麗人
敵味方、人動物、あるいはそれ以外。
全てを黒いものがこわす。
地獄絵図という例えが最も近いと感じた数秒前よりも凄惨な光景だ。
「それに、何やら変です。」
良寧は黒いものを見る。
「死に絶やせ。」
低く、重く、冷酷に。
景之は命じる。
“そうこなくっちゃね。”
その声が地獄絵図に響く。
「!!」
辻丸と良寧は驚く。
戸尾と女さえも、その声に異様な雰囲気を感じていた。
「何が起こるというの?」
その問いを投げた時には景之の姿が消えていた。
「貴様が死ぬ、それだけだ。」
背後から声がしたかと思った瞬間、戸尾の断末魔が聞こえた。
「ぐわぁあああ」
「!!」
女は慌てて血を盾に変えて防御する。
盾が割れ、女は後退する。
「紅巴。」
景之が黒いものを呼んだ。
「久々にきいたよ。」
黒いものは人型に変わる。
紅巴と呼ばれたそれは、少年の姿をしている。
丁度、今の景之と同じくらいの年だろう。
「何なの?」
「見て分からぬか?」
景之が目を細める。
「ぼくは研究で犠牲になった闇夜の一族さ。」
紅巴が答える。
「自分の意思で存在しているというの?死んでいるはずなのに……!」
「そう。」
「聞いたことないわ。こんな力。」
女が驚く。
「そうだ。これは俺とこいつで決めたことだ。」
景之は言う。
「昔、記憶に呑まれる前に取り決めた。“伊井薫を殺すまでは邪魔立てはしない”とな。」
「!!」
「俺とこいつは協力関係にある。」
女に刃を向けると景之は笑った。
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