散華の麗人
沢川も千を見る。
「治重様は勝利に執着するあまり、周囲と対立していましたから。」
(根は悪い人ではないんですがね……)
千は苦笑する。
「貴方がこうして国に仕えているのを見れて……よかった。」
微笑む千に沢川は何も言わない。
「ところで、兄上……幸隆はどうしていますか?」
その言葉に一同は黙った。
「父は上尾の戦にて、討ち死にしました。陛下を守った立派な最期だったと聞いています。」
「兄上が死んだ……っ」
沢川の言葉に千は涙を流した。
八雲も風麗も目を伏せる。
「父は最期に某に手紙を託しました。そこには、貴方のことも書かれていましたよ。」
「兄上が?」
沢川ははっきりと頷く。
「“女は戦をせずにおとなしくしていろ。そして、幸せになれ”」
淡々と言う沢川に自分の兄の面影を重ねて、千は泣くのをやめた。
「……とのことです。父は某に国王陛下のことを頼むと言っておりました。……もっとも、今や陛下は隠居の身ですが。同時に、貴方のことも案じておりましたよ。」
「兄上……わかりました。兄上の言う通りに致します。」
「父も安堵することでしょう。」
「そうだといいです。」
千は願うように言う。
< 863 / 920 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop