散華の麗人
静寂が流れる。
「あ!」
紀愁は僅かに身体を起こして、沢川を見た。
「もしかして、貴方は……沢川橘高信幸殿の息子様である沢川橘高幸隆様の」
「はい。息子の沢川橘高秀信にあります。」
沢川は畏まった口調で言った。
「気配でわかりました。貴方は幸隆様と似ている。けれど、幸隆様にしては若い。年も経験も」
紀愁は静かに評価した。
「橘高の名は、信幸殿が陸羽様から受け取ったものでしたよね?」
「はい。」
紀愁に沢川は答える。
「彼にとっては誇り高い、命よりも大切なものだと聞いています。その名を継がせたとなると……貴方は信幸殿にも幸隆様にも認められているのですね。」
「祖父や父をご存知で?」
沢川は怪訝そうな表情をする。
「ええ。御祖父様はもちろん、貴方の父にも色々とお世話になりました。」
「面識があるのですか?」
「ええ。」
紀愁は懐かしがるように答えた。
(沢川殿を連れて行くように言ったのは、こういうことも含めてか。)
八雲は心の中で納得した。
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