散華の麗人
風麗がそう思うように、八雲も沢川も連れて行くことを不思議に思っていたのだ。
「お二方は私の道場を守ってくださった恩人です。」
紀愁は心から感謝するように言った。
「お二方は領土争いの最中に細川国から私の道場を守り、随分と非難されたと聞きます。しかし、多くの功績を上げ、汚名返上した……素晴らしい方です。」
「勿体なきお言葉。貴方に褒められるとは、祖父も父も喜んでいることでしょう。」
沢川は紀愁に頭を下げた。
「某の父が貴方の話をしたことがありました。空中戦では、貴方より右に出る者はいないとか。」
「買い被りすぎですよ。」
「そんなことはないでしょう。某の父ははお世辞ではなく本気で評価する人です。」
「参ったなぁ……今は思うように動けない有様ですし。」
沢川に紀愁は苦笑する。
「けれど」
風麗が強い口調で言った。
「病が治れば、師匠は最強です。」
その表情からは病が治って欲しいという願いが感じ取れた。
「風麗。私はまだまだですよ。」
「いいえ。私は今まで生きている中で、師匠よりも強い人間を見たことはありません。」
「貴方はまだ若い。この世界に私以上の人間は沢山いますよ。」
紀愁は優しい声音で言う。
「師匠……」
風麗は寂しそうな表情をした。
幼い子供のようにも見えた。
「ははっ。風麗らしくありませんね。」
紀愁は笑う。
「昔、貴方が言ったことではありませんか。」
その言葉に風麗は昔を思い出した。
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