散華の麗人
「……あの時は世間知らずだっただけです。」
風麗は口を尖らせる。
「そうですか。でも、可愛かったですよ。」
「師匠!からかわないで下さい。」
「はははっ」
膨れっ面の風麗に紀愁は笑う。
それにつられて沢川と八雲も笑った。
微笑ましいと思ったからだ。
「あぁ。そういえば」
紀愁は思い出したように言う。
「人参嫌いは克服しましたか?」
「なっ!!」
風麗は赤面した。
八雲と沢川は笑いを堪えている。
「お二人共。笑わないで下さい……!」
「悪い悪い。あっはははは」
「ははは、何だか可愛らしくて……ふふふ、」
風麗に言われた二人は堪えられずにに笑い始めた。
「っ……申し訳ありません。」
沢川は無理矢理に堪えて謝るがどうやらツボに入った様子だ。
「師匠も、何を言い出すかと思えば……私は子供ではありません。」
「では、人参嫌いは克服したのですね。」
「…………それは、師匠が気にしなくていいことです。」
風麗は視線を逸らしながら答えた。
「弟子は我が子同然ですから。気になるのですよ。」
紀愁は微笑む。
「初めて箸を上手に使えた時とか……貴方の成長を見る度に涙が出る程嬉しくて」
「どれだけ昔の話ですか。」
風麗は呆れたように言う。
「私をからかうとは随分と元気なんですね。そんなに元気なら、その勢いで病など蹴散らして下さい。」
「からかったつもりはありませんよ。」
紀愁は落ち着いた様子で言う。
「本当に貴方が愛おしいのです。」
「恥ずかしいことを言うのはおやめ下さい。まったく……」
(師匠は天然タラシだ……)
風麗は口をへの字にしながらも内心は嬉しさを隠せなかった。
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