散華の麗人
隣の風麗と雅之は傭兵として、一歩引いた場所で聞いている。
「故に、その報告に来るだけならば此処まで手荒に急がぬ。」
「……?」
その言葉に首を傾げたのは一正だけではなく、良寧と辻丸含めたこの場の全員だ。
「細川一正。貴様に伝えておくことがある。」
そう言うと、空を見上げる。
雲が陰り、雨が降りそうな天候だ。
「時間がない。手短に言うぞ。」
「?……中に入ったらええやん。」
「態々、裏から入ってきたことが知られれば、やましいことがあると勘繰られる。それに、長居する気はない。」
少年は冷淡に答える。
雅之はそれを睨むように見る。
(八倉景之……一体、何を企んでいる?)
疑いの視線を向ける。
それは、目の前の少年……否、少年の姿を象った存在。
八倉家の当主が、今まで息子としてではなく道具として扱われた故の不信感であるとも否めない。
「外の農民からは何故か、“敗戦国である成田を一掃する為に細川一正が刺客を送った”という噂が流れている。どうやら、戸尾は城へ襲撃を行った際に農民にも手を出しているらしい。」
「!!」
「その噂の出処は不明だ。だが、明らかに貴様の権威や信頼を失墜させる目的で行われたのは確かだ。」
「そないな話、聞いてへんで!」
一正は驚く。
「だろうな。」
景之は納得したような、最初から知っていたような口調で言う。
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