散華の麗人
一正は景之を真っ直ぐ見たままだ。
「世迷言と言われようと、わしはわしの理想を諦めることはできへん。」
そして、景之に近付く。
「妖も、人間も、せめてこの国に存在する限り……見捨てたりしない。」
「馬鹿なことを。」
景之は嘲笑するような口調で言う。
「やはり、貴様は人間だ。」
愚かで、救い難き生き物。
そう言っているような口振りに良寧が拳を握る。
「忘れたわけではあるまい。貴様ら細川は、我が前当主を殺した。己の利害の為に排除した。」
景之は静かに言う。
「それが、現実だ。犠牲無き実現など、ありはしない。」
目の前のものに囚われるな。
優先順位を決め、取捨選択を正しく行え。
そう言っているようにも聞こえる。
(もしかして)
風麗はそれを見て、景之の言葉は細川を非難するだけではないのだと考える。
確かに、人間を嫌う言動が目立ち、喧嘩を売っているとしか思えないが。
(これは、目の前の民を全て救おうと躍起になっている現状を諌めているのか。)
細川一正という人物が折れてしまう前に。
誤った選択をしないように。
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