散華の麗人
陸長や秀尚、そして利光。
一正のやり方を快く思っていない者達。
「それでも、本城に行った後で問題はない。」
雅之は腑に落ちない顔でいる。
「本城で自分の身に何かあった時の為……と、いう可能性も普通の人間ならば考えられるが」
「あの自信家に限ってそれはないだろ。」
「ああ。」
辻丸に雅之は頷く。
恐らく、全員の頭の中に“人間風情に負けると思っているのか”と此方を見下す無表情な自信家が浮かんでいることだろう。
「辻丸と良寧を此処に置いていったことも気になるな。」
一正は唸る。
「それは、雨が降ってきたからじゃ」
「そんなのを気にする男か?」
「……確かに。」
言葉を遮る雅之に辻丸は反論出来なかった。
「別行動を取らなければならない理由があるとしか思えない。」
その言葉に辻丸が立ち上がる。
「やはり、追いかける。……今なら、未だ追いつける。」
「やめなさい。」
良寧は辻丸を着席させる。
畳がメリッと軋んだ気がしたが、気のせいということにしよう。
「何処に向かったかも見当が付いていないのです。それに、何れにしても現国王殿に報告しには行くでしょう。」
良寧は冷静だ。
「じゃあ、本城に」
「行かないほうがええと思うで?」
一正は苦い顔をした。
「あんたはもう、国王やない。小姓や。そないな身分で勝手に本城に行けば、門前払いされるのがオチや。」
「馬鹿にしてはまともな意見だな。」
「一言多い。」
馬鹿にする雅之を一正は睨む。
「……嫌な予感しかしない。」
辻丸は昨晩のことを思い返す。
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