散華の麗人
――白湯を取るように命じられた辻丸は言われた通りに景之に白湯を持ってきた。
『おい、持ってきたぞ』
襖を開けると、そこには横たわる景之の姿があった。
『……おい。』
眠っているのかと思い、触れて気付く。
『!!』
喀血したのだろう痕跡と異様なまでに冷たい肌。
『起きろ!おい!』
声を荒げる。
死んでいるのかと思った。
同時に、死なれたくないとも思った。
『八倉』
辻丸が呼ぶと景之はゆっくりと瞼を開けた。
『どうした?』
寝ぼけたような口調で呟く。
“おはよう”とでも言うような表情を見ると辻丸は何だか力が抜ける。
『驚かすなよ……』
『?』
景之は不思議そうな顔をした後で、辻丸を無視して白湯を見る。
『…………ああ、ご苦労。』
突き放して、高圧的な態度を取るのかと思った辻丸は面食らった顔になる。
(ご苦労とか、言えたんだな。)
そう思いながら景之を起こす。
全く抵抗を見せない様子にも驚いた。
『予想よりも、身体が弱っている。情けないことにな。』
景之はそう言って素直に身を委ねた。
< 896 / 920 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop