散華の麗人
その行動が意味することを辻丸は何となく察した。
恐らくは、疲弊し過ぎて動くこともままならないのだろう。
その証拠に白湯を飲もうとする手が、器をすり抜け空間を掴んでいる。
目の前の景色を認識をしているのかと疑問に思う。
『人間』
不機嫌そうに呼ぶ。
その言い方は今までと変わらない。
『何だよ。』
辻丸もいつものように返す。
『白湯を、』
景之は苦しげに咳き込む。
『おい、しっかりしろ。医者を連れて来た方が』
『いいや。いい。』
『でも』
『いいと、言っている。』
辻丸の進言は聞く気がないようだ。
仕方なく、辻丸は景之に白湯を飲ませる。
『……明日の朝、出立する。』
景之は勝手に決めた。
『馬鹿、そんな身体で無理だ。』
『人間が決めることではない。』
『だが』
『嫌ならば留守番していろ。』
辻丸の話は全く聞こうとしていない。
『本城に行く前に、細川一正に用がある。』
それだけを伝えると、瞼を閉じた。
辻丸は内心、景之を投げ飛ばしたい気持ちだ。
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