散華の麗人
それを抑えて、そっぽを向いた。
少しして景之は落ち着いた様子でゆっくりと目を開き、瞬きをする。
眠たそうにも見える。
『あたたかいな』
そう、呟いた。
その言葉は無意識だったのか
心を開いた表れか
『……人間とは、そういう生き物だったな。』
驚いた顔で辻丸が慌てて景之を見ると、すうすうと寝息をたて始めた。
まるで、ただの子供だ。

その翌日だった。
何事もなかったかのように、景之は目を覚まし、支度をしていた。
茶室の片付けを押し付けた為か、辻丸は終始不機嫌だ。
『身体は大丈夫なのかよ。』
それでも、一応案じる。
『何の話だ。万全、とまでは奢らぬが至って問題ない。』
冷淡な態度は普段と同じに見えた。
早足で歩く景之に遅れを取るまいと辻丸は忙しなく行動する。
家臣や柚木に何か伝えている様子だった。
出立の前に柚木が呼び止めた。
『報告ならば、今すぐでなくとも良いのでは?』
『早ければ早い程良い。それに、俺の身体とて、いつまで持つか解らぬ。』
不審そうな柚木に景之は淡々と言う。
『国王の前で血が見たい、と言うならば話は別だが。』
そう言い残すと馬に跨った。
『冗談だ。そう簡単にくたばるものか。』
そして、馬を走らせる。
『あ!!待て!』
辻丸も慌ててついて行った。
その後に、良寧と合流した。
どうやら、柚木から見張るように言われたらしい。
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