散華の麗人
細川分城の裏山
辺りは薄暗く、今にも雨が降りそうだ。
景之は馬を走らせる。
出来るだけ遠くへ
出来るだけ目立たぬように
(これは、俺の咎だ。)
裏山へ入った頃だろうか。
苦しげに胸を押さえ、馬から転がるように降りる。
「っ、」
ごほごほと咳をする。
地面に血が点々と付く。
(予想よりも、力を使いすぎたらしい。)
空から雨が降り注ぎ、身体を濡らす。
「どこか、休める場所を……」
ふらふらと立ち上がると歩みだす。
「休める、場所、など」
何処にあるというのか。
平穏は訪れぬ。
永久の闇に安らぎなど訪れぬ。
(そう。あの女を殺すまでは。)
最愛の妻だった。
政略でも、見合いでもなく、ただの女を愛した。
(だから、此処でくたばるわけにいかない。)
視界が歪む。
(戦っていた時から思っていたが、秘薬の影響が既に出始めている。……狂うのも、時間の問題か。)
だからこそ、あの少年に黄龍殺しの刀を渡した。
あの少年なら、自分を殺してくれる気がした。
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