散華の麗人
――否、殺されても良いと、思っている。

『あんたは全てうしなった理由を人間に押し付け、逃げていただけだ!過去から動けずに立ち止まっている。いつまで、そんなものに縋り付いてるつもりだ!!』

(奴は過ちから目を逸らす俺を糾弾した。)
決して、許さなかった。
逃げることを見逃さない。
その真っ直ぐな目に信頼を寄せている。
そんな自分の心を否定しない。
「焼きが回るとは……まさに、このことだな。」
(後継をそろそろ正式に決める頃か。)
狂う前に
もう、何ひとつ失わない為に。
雨が容赦なく降り注ぐ。
着物や髪の毛を濡らす雨は冷たく、体力を奪っていく。
動く気もおきない。
(もう、眠ってしまおうか。)
死にはしない。
此処に敵が現れる可能性も低い。
“きゃはは、こんなところでねるって……きみは、おもしろいなぁ。”
子供の声が脳内に響く。
「黙れ。」
一言、そう言って地面に仰向けになって倒れた。
「空か。」
(こうして眺めるのは久しいな。)
ずっと今まで、政務や争いで忙しなかった。
(……病床の娘の見舞いにさえ、行けなかった。)
襲撃される前に家臣が言った言葉を思い返す。
(重病ではないだろう。)
伊井薫に襲撃された時に亡くした妻の子。
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