散華の麗人

変えられぬもの

――翌日
朝日が差す。
障子の隙間から零れおちた光に景之は目を細めた。
(此処は……?)
起き上がると、見覚えがない部屋。
しかし、誰かが監視しているわけでもない。
(誘拐や賊の類ではなさそうか?)
怪訝そうに辺りを見回す。
ふと、自分を見ると服が昨日着ていたものではないことを自覚した。
子供用の浴衣という雰囲気だ。
(宿泊施設か?)
浴衣の柄を見て思う。
温泉を表す柄と、この宿の名前であろう“威瑠庵”という文字が認識できる。
「む。」
辺りを見回せば、恐らく自分の懐に入っていた所持品らしきものが枕元に置いてあった。
「一体、誰が此処へ連れて来た?」
ひとの気配に鈍い筈はないのだが。
仮に気付かなかったとして、ここまで厚遇されるとは何か理由が有るに違いない。
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