散華の麗人
そして明るく笑った。
「茶屋を目指すぞー!」
「遊びではなく、馬休めだということをお忘れなく。目指すのは成田国、ですよ。」
千代が楽しそうに言う一正に釘を刺す。
「それで、ここからどのくらいや?」
「25里です。」
「じゃあ、そこから敦賀の屋敷までは?」
一正が問う。
「……さすがに、今日中には着かんやろ。泊めてもらう。」
そう付け加える。
千代は地図を見た。
「茶屋から50里です。」
「そうか。」
そう答えると一正が頷いた。
「敦賀は家来とはいえ、小大名にも匹敵する財力を持ってます。」
「確か、農民の子だったな。ジジィが抜擢し、大村の小姓にしたとか。それから、才覚を現し、力をつけ始めた。……せやけど、何故今も?その気になれば大名になれるはずや。」
一正は不思議そうだ。
「恩に報いる為、と聞きました。」
「律儀やなー。」
「……それ故に、笹川のように篤く彼を慕う者が多いのです。」
千代は笑む。
「笹川は代々、細川に仕える家来だとか。」
「えぇ。多くの家来がそうであるように。」
「ふーん」
2人はそんな家来の話をしながら馬を走らせた。
そして、茶屋に着いたのは夕暮れ時だった。
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