それでも君を好きになる
だけどハルは、後悔しているあたしに構わずに一歩足を踏み出すと、そのまま門のすぐ近くまで歩いていった。
あたしも追いかけようとしたけど、ハルの後ろ姿を見ていたら、なんとなく動き出せなくなった。
ハルが門を超えようとした、その時だった。
「あれ、橘?」
聞き覚えのある、誰かの声。
橘とは、あたしの名字で。
声が聞こえてきたほうに顔を向けると、黒い髪の毛の男が目に入った。
日焼けした肌に、幼さが残る少年っぽい顔。
制服を着ていて、部活用らしいエナメルの大きい鞄を肩から下げている。
「村上?」
「あ、やっぱり橘だ。何してんの?」
村上、とは同じクラスの男子生徒だ。
バスケ部で、人気者で、そして――…。
ハルの、親友。
「あー、えっと…、ちょっとね。村上は?部活?」
「部活は午前で終わり。今は忘れ物したから戻ってきただけ。」
「そう、なんだ…。」
横目でハルを探す。
と、思ったよりも近くにいた。
ニコニコ嬉しそうに笑っている。
「蒼矢じゃん!うわー、焼けてるし。いいなー。」
村上の下の名前を呼びながら、あたしの隣に立つ。
だけど村上はハルを見ない。
あたしだけしかいないみたいな、そんな風に振る舞っている。
そんな村上を見て、言葉が出なくなった。
村上にさえ、ハルは見えないのか。