彼氏が犬になりまして
第一章
彼氏が犬になりました
「で?」
アタシが腕を組んで睨むと、目の前で正座している彼氏の優輝は小さく縮こまった。頭の上の犬耳も情けなく垂れている。
ーーそう。犬耳。コイツはついさっき、この犬耳を晒しながら『犬になりました』とのたまったのだ。
「ナニがどうしてどうすれば、そうなるワケ?」
「いや……オレにも何がなんだか……」
さっきからコレばかり。理由を訊いても分からないと言うばかりで、なんでも朝起きたら犬耳と尻尾が生えていて、パニクって右往左往狼狽しまくったあげく、アタシの所に助けを求めに来たそうだ。
「……アタシにどうしろって言うのよ?」
「どうって、言われても……。オレ自身どうすりゃいいんだか……」
「研究所に勤めるか、サーカスに入るかじゃない?」
「それ!実験台と見世物じゃんか!」
「しょうがないじゃない。そんな姿人に見られたら、どうせ研究所かサーカス送りよ。ーーそれか、保健所ね」
「そ、そんなぁ……」
ますます落ち込んだ様子で、うなだれてしまう。ちょっと言い過ぎたかしら……。
「……悪かったわよ、ちょっと言い過ぎたわ。だけど、どうするの?」
「んー……耳と尻尾をなんとかしねぇと……」
「コレ、取れないのかしら?」
犬耳をつまんで、思い切り引っ張ってみる。
「痛い痛い!は、離して痛いって!」
耳を離すと、自分の犬耳をさすって恨めしそうに見られた。
「取れないわね」
「当たり前だろ!生えてんだから!」
「んー、じゃあ、引っ込まないの?」
「引っ込めるって、どうやって?」
「どうって、気合い?」
「んな無茶な」
「無茶でもなんでも、やってみるしかないじゃない」
「そう言われても……んー……」
目を閉じて深呼吸を繰り返した後、もごもごと『引っ込め~引っ込め~』などと唱えている。
ジーと犬耳を見つめているとーーふわりと横に垂れたかと思えば、そのまま髪に紛れて見えなくなった。後ろに回って確認してみたが、尻尾も消えている。
「優輝!引っ込んだわよ!」
「え?マジで!?」