T&Hの待望
第1話 1.黒川兄弟
7月始め、長期休暇を目前に控えた胸踊る日本列島。
開け放たれた窓から侵入を試みる陽射しの気配を、じわじわと左腕に感じながら。
「今朝登校一番耳にした『黒川悠一伝説』で悟ったんだけどさ」
「ああ?」
「兄貴ってやっぱ人間じゃなかったんだね。とっととラグナグ星に帰れば?」
「……」
「兄貴みたいに話題性豊富だとさ、伝説の更新が早くて大変だと思うよ?」
あ、でもこの数々の伝説は一体いつ誰が更新してんだろ。
そもそも『伝説』の発祥地はどこだ?
ブツブツ付け加えた後、右の拳を左手の平に打ち付け、
「全部兄貴自身か!?」
「やかましい。お前が星へ帰還しろ」
不条理な平手打ちを喰いかけた少年が、大袈裟に頭を庇う。
教室の窓際最後尾の席で、黒川悠一は弟の訪問を受けていた。