恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
この人しかいらない、とか
貴方にしか触れられたくないとか、私だけを見て欲しいとか


そんな感情が私には生まれたことがないことに気がついたのだ。
それからは、気分次第成り行きで一度きり、が私の信条だ。


笹倉とは何度か肌を重ねているが、彼も特定を作らないから安心できる。
彼がもしも恋人でも作ったら、それも終わるけれど。




その時だった。

くっと喉を鳴らすような笑い声が聞こえたのは、隣のテーブルからだった。
視線を投げた先にスーツの男二人組。


いかにも、仕事出来そうな。


そんな第一印象。背筋が綺麗だからか、スーツの着こなしがとても綺麗に見えた。
そして間違いなく、女慣れしてそうだ。


向かいに座るもう1人はまだ若い、大学出たてのような雰囲気。少し慌てた様子で視線が行ったり来たり。



「先輩!失礼っすよ!」

「いや、昼間っから面白い話してるなと思って」



明らかに男は此方を見てる。
相変わらずくつくつと喉を鳴らしていて、少しむっとした。


軽そうな女だからとナンパ目的か。
若しくは、経験豊富な俺様に小馬鹿にされてるのか。


後者かな。



「経験値浅いんで。まだまだ恋愛迷走中なんですよ。知らない人の会話に乱入しちゃダメでしょ」


べ。と舌を出してやる。普通に失礼だろ。


「あぁ、そっか」



男はスーツの内側に手を差し入れてから、何かを指先に挟んでこちらのテーブルに差し出した。


「これでお知り合い。名前なんていうの?」


前者かよ!!


差し出されたのは、名刺だった。
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