恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「厨房と貯蔵庫って、扉開いてるから結構筒抜けでね、すごい泣き声が聞こえるから一度見に行ったんだけど……」



まじか。
今もまた泣きたくなった。



「藤井さんに、手で追い払われるし。結局泣きながら帰っちゃったみたいだから気になって…もう来てくれなかったらどうしようかと」

「だからちゃんと連れて来たじゃないですか。勘弁してくださいよ」

「あの」



そこまで聞いて、我慢できなくなった私は、話の途中で申し訳ないが、遮らせてもらった。



「恥ずかしいんで、もう。その話は」



ストップで。と手のひらを向けて主張した。



「あはは。ごめんね。ドリンク何にします?」



こほん。と咳払いひとつして、烏龍茶を二つ頼む。
藤井さんは車みたいだし、私一人で飲むのもおかしな話だし。


かしこまりました、と一度会釈してから、ついでのようにマスターが零して行った。



「でも良かった。藤井さんがあれから、君を捕まえたいのに中々捕まんないってウチ来る度ぼやいてたから、それも気になってたんだよね」



ぱちぱちと目を瞬かせてマスターの後ろ姿を見送ると、藤井さんへ視線を向ける。


彼は、ちっと舌打ちして、眉を歪ませていた。



「名刺に携帯番号ものってんのに全くかけてこねぇし。自分でもドン引きするくらい通ったんだから、ぼやきもするだろ」



まぁ。
私もドン引きしましたけどね。



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