恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
途中から意地になって通ってたとしか思えない。



「悪かったとは、思ってんだよ」



食事をしながら一頻り、当たり障りのない会話を交わした後、ポツリと届いた言葉。


あの日のことを言ってるのは明瞭で、思い出すと胃がぎゅっと掴まれたような重みを増す。


それくらい、恵美は私にとって影響力のある友人だった。



「あの日、帰り際。藤井さん、言ってたじゃないですか」


一度区切って、グラスで唇を湿らせる。


「恵美も、思うように恋愛できてないんだろうなって」


頬杖をついて此方を見ていた藤井さんは、ついとあらぬ方へ視線を逃がした。


「なんで、そう思ったんですか?」


暫く沈黙が続いたけれど、指先がコツンと鳴るのと同時に視線が合った。



「誰かに聞いた?あの日のやりとり」

「カナちゃんから、少し」

「感情的な表情って、時に言葉よりも確かに伝わってしまうっつうか。
 多分あの場にいた人間は皆わかったと思うんだよな。あの子が、誰を好きなのか」



それを聞いて、彼もやっぱりそう思ったのだと、益々疑いようのない事実に近づいてしまった。



「それは、笹倉も多分、気づいたってことですか」



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