恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「友達が居なくなって泣くくらいなら、最初から遊人なんて気取るなよ」


ぎし、と椅子が軋む音で彼が背もたれに身体を預けたのがわかる。
私は、怒られたショックで焦点がブレた目を懸命に合わせようとするけど、上手くいかない。


悔しいけど。
まったく、その通りなんだ。



「…ほんと、めんどくさい。お前ら」



言葉とは裏腹に、急に柔らかくなった声と頭を撫でてきた手は優しかった。


それは、たった今私の心を粉砕した人物と同じ手なのに。
急速に解けた緊張感と、安堵でまた、ぼろぼろと涙が溢れた。



「あの子が黙ってるうちは、知らないふりしといてやれよ」



そう。絶対、私には知られたくなかったはずだ。
私は、気づいてない。
それが、今思いつく、私にできること。




「なぁ。ところでさ」



ハンカチで鼻を抑えながら、顔を上げた。



「そろそろ泣き止まね?俺めっちゃ店長に睨まれてんだけど」



泣かしといてなんだけどさ。
少しおどけてそう言った藤井さんに、私は漸く、唇だけで笑った。


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