恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~




やっぱりでかいな。
二人分のコーヒーを煎れながら、思った。


リビング、といってもダイニングも兼ねてのスペースだが、独り住まいなのでソファとローテーブルしか置いていない。
だからいつもは、広いと思っていたが。


藤井さんがいると、やけにソファとテーブルの位置関係がせせこましく感じる。
長い脚が間に挟まれて、窮屈そうに見えるからだろうか。


彼は私の携帯の画面を見ながら、難しい顔をしていた。
イタ電より、こっちのが怖い。



「俺の番号登録しとくからな」

「あ、はい。どうも」



私の返事を確認すると、親指で操作し始めたのがキッチンからでも伺える。



「交換な」

「はいはい」



私の番号も、ってことなんだろう。
別にそれは構わないが。


無言電話やポストの嫌がらせが気になったのか、一旦家に上がってくれることになった。
駐禁が心配なので、余り長くはいられないだろうけど。


トレーに載せて運んだコーヒーを、テーブルの空いたスペースに置く。
藤井さんとはテーブルの角を挟んで、隣の位置するラグの上に座った。



「なんか、気になるよな」

「何がですか?」



私の携帯をぱちんと閉じて、差し出してくる。
受け取った携帯は今は静かになっていたが、私がゴミ袋をもってポストに戻り、二人で片付けて部屋に入るまで、ずっと鳴り続けていたのだ。

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