恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「俺らが、家に入った途端、止まったと思わん?」

「そういわれれば、そうですけど。偶然ですよね。コーヒーどうぞ」



自分のマグカップを口元に運んで、ふぅ、と何度か息を吹きかける。
それほど気温の低い季節でもないが、雨に少し濡れたせいで身体が冷えてしまった。


カップを両手で包んで暖をとる。


藤井さんは、怖い顔継続中だが、考えても仕方のないことだ。
思い直したのか、溜息をついてカップを手に取った。



「あ、お客さん用とかないので、そんなマグカップですみません」



大きい手に、赤とピンクのでっかいハートが描かれたマグカップがどうも不釣り合いだ。



「なあ。これな。怖がらせるかもしれないと思ったからどうするか悩んだんだが」



マグカップのデザインには無反応で、藤井さんがクシャクシャになった写真を私に差し出した。
クシャクシャ…の理由は、それがさっきのポストに入れられていたものなのだと察しはついたが。



「あれ…これ。私?」



少し遠目で、余り解像度の良くない様子の写真は、咄嗟に携帯か何かで撮ったように思わせる。
ピントも少し、ズレていた。


よく見れば写っているのは、間違いなく、自分。
横には、笹倉も居た。
< 120 / 398 >

この作品をシェア

pagetop