恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
私は、大きく目を見開いた。
あの時、非通知でかかってきていた電話。


タイムオーバーで切れても、すぐにまたかかっていて部屋に入るまで鳴り続けていた。


あの作業を、もくもくと。
どこかから眺めながら。



「この、雨の中?」

「そう。ありえなくもないけど」

「…こわっ!」



想像しただけで、一気に肌が粟立った。


少々飛躍しすぎたのかもしれないが、大雨の中雨合羽を着た人物が、路地裏の角に身を潜め、にやりと笑いながら発信ボタンを押し続ける映像が頭に浮かんだのだ。


不気味すぎる…!



「きもちわるー…ありえない。気にしすぎですよ、同一人物とは限らないじゃないですか」

「まぁ、仮定だけどな。お前も一応女なんだし、考えといた方がいいだろ」

「……その、一応ってのがどう言う意味なのかを、私は問い詰めたいです」



一応ではなく、れっきとした女だ。
ぷく、と頬を膨らませると途端に大きな手が伸びてきて、両頬を片手で掴まれる。


ふしゅ、と頬から空気が抜けた。



「ちゃんと女だってわかってるから心配してんだろ。お前、遅番の日は連絡してこい」

「ふぁい…?」



掴まれたまま返事をして変な声になり、藤井さんがようやく少し唇を緩ませた。
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