恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「で、10回送ったら1回抱かせろ」

「いやですってば。ふざけんなですよ」



当然ながら冗談だろうと、たかをくくって適当にあしらった。
傍で聞けばどんだけ必死なんだ、というそのセリフが笑わせてくれる。



「なんでそう頑なに拒否なんだよ。遊人じゃなかったのかよ」



ぼやきのようで、私の反応はわかっていたのだろう。
喉を鳴らして笑っている様子に、やっぱり冗談なんだと確認できて安堵した。



「なんでか、藤井さんの誘い方って拒否したくなるっていうか。それが寧ろ気持ちいいっていうか」



くそ女。今に見てろよって。
呟きながら軽く額を弾かれた。



「藤井さんこそ、なんでこんなに構うんですか」



弾かれた額を片手で摩りながら、ふとした疑問を口にする。
藤井さんはマグカップの冷えたコーヒーを口に運んで、少しの間を置いた。



「遊びじゃなくて、本気ならいいかって聞いたよな」



あの日、貯蔵庫で言われたセリフだった。
本気の訳ないのに、一瞬囚われたように動けなくなった、あの時。


同じように、どくんとひとつ、心臓が跳ねた。



「まぁ、嘘なんだけど」



………。



「…はいはい。もうからかって遊ぶのやめてください」


うっかり動揺させられて、かちんと来た。
唇を尖らせて抗議すると。



「でも、お前に興味があるのは本当」

< 125 / 398 >

この作品をシェア

pagetop