恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「あー……」



彼は暫く天井を見て、思い当たった様子でまた私を見下ろした。



「俺の彼女、タフでないと身体もたないんだよ」



狭山、タフだよなぁ
しゃあしゃあと言ってのけるものだから、私の顔も渋くなる。



「…ちょっと、まさかそれで私だったんじゃないでしょうね」



調子に乗って言葉にしてから、気不味い話題だったかと後悔したが。
彼は、顔をくしゃっとさせて笑った。



「そうだよ」



ベッドの端に腰掛けて、スプリングの軋む音がした。
まだ洗ってない、決してサラサラとは言えない私の髪を、掬っては落とす指先。



「だからお前はなんも気にすんな」



何も、言えなくて。
笑ってみせるしかできなかった。



「…乱暴にしてごめん」



髪を遊ぶ指先が動きを止めて、頬に触れかけたけど、逡巡し、揺れてベッドに落ちた。



「別に、ちょっと強引だったくらいだよ。どっこも痛くないし」



ほんの少しだけの嘘を織り交ぜて、私は言った。
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